土曜BLOGでは、経営者・事業主の方から寄せられたご相談事例をもとに、経営判断や人材配置、組織づくりのヒントをお伝えしています。
今回のテーマは、「事業承継候補の可能性を見抜き、役割と環境によって力を引き出すこと」です。
後継者選びでは、経歴や現在の役職、本人の自己評価だけでは見えないものがあります。とくに、周囲への配慮ができる謙虚な人ほど、自分から「私に任せてください」とは言わないものです。
しかし、その控えめな印象の奥に、組織をまとめ、次の段階へ導く力が眠っていることもあります。
今回は、高齢者施設を運営する50代男性代表から受けた、40代女性の事業承継候補についてのご相談をご紹介します。
※個人が特定されないよう、一部を調整して掲載しています。
「この方に事業を任せてもよいでしょうか」
ご相談者は、高齢者施設の運営を担う50代の男性代表です。将来を見据え、事業を引き継ぐ候補者について考え始めていました。
候補に挙がっていたのは、40代の女性。普段は穏やかで柔らかな雰囲気を持ちながら、必要な場面では迷いの少ない、いわば男性的とも表現できるほど思い切った決断をされる方だそうです。
ご本人は「私には少し荷が重いかもしれません」と控えめに話しているとのこと。
しかし、いったん気持ちのスイッチが入ると、強い責任感と行動力を発揮し、周囲を束ねていく力があると伺いました。
代表はその力を認めながらも、
「本当に高いポジションを任せてよいのか」
「本人にとって無理な負担にならないか」
と慎重に考えておられました。
大切に育ててきた事業だからこそ、期待だけで決めたくない。候補者の人生も組織の未来も尊重したい。その誠実さが伝わってくるご相談でした。
鑑定で見えてきたのは、調整役にとどまらない資質
鑑定を進めると、候補者には周囲の状況をよく見て、人と人の間を整えるバランサーの気質が表れていました。
介護や福祉の現場では、経営側の判断、職員の思い、利用者様とご家族の希望など、異なる立場を調整する場面が少なくありません。
単に決断が速いだけでなく、相手の気持ちを受け止めながら全体を前へ進める力は、組織の要となる大切な資質です。
さらに深く観ていくと、その方は調整役として支えるだけではなく、周囲の意欲を引き出し、自ら先頭に立って人を動かす力も持っていました。
潜在的には、より高い志や目標を掲げ、そこへ向かって成長することに生きがいを感じやすい方です。
目の前の業務を無難にこなすだけでは、かえって能力を持て余す可能性があります。
目指すゴールと担う責任を明確にし、現在より高い視点が求められる役職を任せることは、ご本人の成長にも組織の発展にもつながると考えました。
そこで私は、事業承継を見据えた高いポジションへの登用に賛成したうえで、次のようにお伝えしました。
「人前で考えを伝える機会を、意識して増やしてみてはいかがでしょう」
人を説く機会が、眠っているリーダーシップを育てる
候補者は、まだ能力が伸びていく余地の大きい方でした。
なかでも、セミナー、職員研修、事業説明、講演など、自分の考えを整理し、人に分かりやすく伝える経験が、次の成長につながります。
この提案をお伝えしたとき、代表は一瞬、はっとした表情をされました。
「そういえば、見た目の穏やかな印象とは違って、イベントの司会や説明を堂々とこなしていました。プレゼンや解説にも説得力があったことを思い出しました」
普段の控えめな姿だけを見ていると、前に立つ力を見落としてしまうことがあります。
しかし、過去の具体的な行動を振り返ると、鑑定で見えた資質を裏づける事実が、すでにいくつも表れていたのです。
鑑定は、肩書きを決めるための“答え合わせ”ではありません。
本人の資質を一つの視点として捉え、日頃の言動や実績と照らし合わせることで、まだ言語化されていない可能性を発見しやすくするものです。
「失敗しても、私が責任を取る」という代表の覚悟
この事例で印象的だったのは、候補者の能力だけではありません。
代表ご自身が、以前から、
「失敗しても大丈夫。私が責任を取ります」
と伝え、あたたかく受け止めていたことです。
後継者候補に責任ある仕事を任せるとき、失敗を一切許さない空気があると、人は正解探しに終始し、大胆な決断ができなくなります。
一方、何をしてもよいという放任でも育ちません。
任せる範囲と判断基準を示し、節目では支え、最終的な責任は現代表が引き受ける。この土台があるからこそ、候補者は持っている力を安心して発揮できます。
お話の終わりには、代表の表情がぱっと明るくなりました。
「そうですか。私はもともとスピーチがあまり得意ではないので、その点でも頼もしいですね」
候補者に自分と同じ能力を求めるのではなく、自分にはない強みを次代の力として認める。
代表がそのように心を決めた瞬間だったように感じます。
事業承継候補を見極める5つの視点
後継者候補の適性を考える際は、次の5点を確認すると、現在の印象だけに左右されにくくなります。
- 判断力
状況が変化したとき、自分の考えを持って決められるか - 調整力
異なる意見を聞き、全体にとっての着地点を探せるか - 説明力
方針や目的を、相手に合わせて伝えられるか - 責任感
問題が起きたとき、他人のせいにせず対応できるか - 成長意欲
より高い目標や役割に、意味を感じられるか
すべてが最初から完成している必要はありません。
大切なのは、どの力がすでに表れているか、どの力は経験によって伸ばせるかを分けて考えることです。
後継者は「選ぶ」だけでなく「育つ環境をつくる」
事業承継というと、誰を後継者にするかという選定に目が向きがちです。
しかし実際には、候補者が力を発揮できる役割と経験を、計画的に用意することが欠かせません。
たとえば、まずは一部門の方針説明や職員研修を任せる。次に、数値目標を伴うプロジェクトを任せる。さらに、幹部会議で自分の言葉で提案してもらう。
このように責任の範囲を段階的に広げることで、本人の適性も、周囲からの信頼も確かめられます。
また、本人が「荷が重い」と話すとき、それが本当に望んでいないという意思なのか、責任の大きさを理解しているからこその慎重さなのかを見極めることも大切です。
辞退の言葉をすぐに消極性と捉えず、何に不安を感じ、どのような支援があれば挑戦できるのかを対話してみてください。
よくあるご質問
Q1.鑑定だけで、事業承継の後継者を決めてもよいのでしょうか?
A.鑑定だけで最終決定することはおすすめしていません。
鑑定は、候補者の資質、力を発揮しやすい役割、成長課題などを整理する一つの材料です。
実務経験、本人の意思、経営数値への理解、職員との関係、必要な資格や法的手続きなど、現実的な条件と合わせて総合的に判断します。
Q2.候補者本人に、まだ承継の意思がはっきりない場合でも相談できますか?
A.はい、ご相談いただけます。
まずは現代表の考えを整理し、候補者に何を期待しているのか、いつ頃までに何を経験してもらうのかを明確にします。
そのうえで、本人の意思を尊重しながら対話を進めます。承継ありきで結論を急がず、複数の選択肢を持つことも大切です。
未来の経営体制を、資質と現実の両面から考える
後継者候補が控えめに見えるからといって、リーダーに向いていないとは限りません。
穏やかさ、調整力、決断力、説明力は、同じ人の中に共存することがあります。
本人も周囲もまだ気づいていない強みを見つけ、発揮できる役割を用意することが、事業承継の大切な一歩になります。
経営未来設計セッションでは、経営者ご自身の状況、後継者候補の資質、組織の課題、承継までの時間軸を整理し、「誰に、何を、どの順番で任せていくか」を一緒に考えます。
鑑定上の見立てだけに偏らず、現場で起きている事実や経営上の条件と照らし合わせながら、意思決定を支援します。
また、経営者ではない個人の方には、仕事、家族、生き方、これからの役割を整理するライフデザインセッションをご案内しています。
周囲を優先するあまり、ご自身の気持ちや目標が見えにくくなっている方にもご利用いただけます。
まずはご自身の状態を整えるところから、一緒に未来を考えてみませんか?
小牧市・名古屋周辺での対面セッションのほか、全国オンラインでも対応しています。
事業承継、人材配置、後継者育成、今後の経営体制について気になっている方は、まずは無料相談から、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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